新型肺炎重症化リスクの老人施設は戦々恐々

新型肺炎重症化リスクの老人施設は戦々恐々

 新型コロナウイルスによる肺炎の感染が拡がり続けている。「感染拡大期」「蔓延期」に入ろうとしている。この段階で、どれだけ発症者数を抑えられるかによって「回復期」「小康期」を含む総体的なダメージが変わってくる。

 まずは早い診断が求められる。厚生労働省は、ウイルス検査数の少なさで批判が集まっていた「リアルタイムPCR法」への保険適用を決めた。全国の設備のある医療機関に検査試薬を送り、態勢が整った段階で保険収載の手続きを取る方針だ。遅れていた対応が少し進んだようだ。

 しかし、一般の新型コロナウイルス感染への疑いに対しては、「風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く」「強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある」場合、「帰国者・接触者相談センター(各自治体の保健所)」に相談するよう厚労省はアナウンスするばかり。トータルでどのような受け皿が設けられるのか、まだ不明だ。

 すでに市中感染のステージに入ったとみられ、「早い診断」とともに「新型肺炎の重症化を防ぐこと」が喫緊の課題となっている。万一、重症化したらどうなるのか。どの医療機関にかかればいいのか。どんな薬が投与されるのか……と不安は募る。

 とくに重症化リスクの高い高齢者が集まる介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などの関係者は、いつ感染が起きてもおかしくない、と戦々恐々としている。2月22日には、東京都内の介護老人保健施設で利用者を送迎する60代の男性運転手の感染が確認された。男性は、12日、風邪のような症状が出たために医療機関を受診。翌13日は出勤し、15~19日はインドネシアを旅行した。その後、再度、受診すると肺炎の診断がつき、入院。新型コロナウイルス陽性と確認され、呼吸困難を伴う重症になったという。

 高齢者施設は、介護や食事、入浴など入所者、利用者との濃厚接触の場面が多い。高齢者の命を預かる現場は、危機を乗り切るために何を必要としているのか。

 都内の中規模(定員30~99人)特別養護老人ホームの所長にインタビューをした。所長は、現時点では、昨年3月に厚労省が出した「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版」に添って対応しているという。

 「とにかく、ウイルスを『絶対に入れない』が基本です。家族や業者が施設内に入らないよう面会謝絶。業者の備品の納品は、インターフォンで連絡を受けて玄関スペースで受け渡し。スプリンクラーの点検のようなどうしても入らねばならないケースは、検温、体調チェックのうえ、中国の武漢渡航歴がないか、署名してもらってから入れる。もう武漢云々はいみないですけど。われわれ職員も毎朝、出勤時の検温、手洗い、マスクは必需ですね」

 必死の防御態勢を取っているが、もしも、施設内で利用者や職員に体調の異変が生じたらどう対応するのか。

 「発熱、風症状などの異変が生じたら、嘱託医に連絡し、その指示で保健所に届け出るとか、PCR検査を受け取るとか、次の段階に進みます。ただ、『37.5度以上の発熱が4日以上続く』といった国が示した目安に縛られているので、高熱が出て心配だからといって、すぐに病院にかかれるわけではない。法的には保健所の役割が非常に大きいのですが、医療的な処置をしてくれるわけではない。電話相談でいっぱい、いっぱい。いざというとき、どうやってどこに感染者を送ればいいのか、まったく見えていません。インフルエンザで発熱する方も当然いるわけで、個室で隔離して悪化したら、それこそ命取りです」

 一般の入院にかかわる医療は、全国344の「二次医療圏」で体制が構築される。人口約40万人程度の医療圏であり、「地域医療構想」の策定単位とほぼ重なる。この医療圏のなかの中核病院に「帰国者・接触者相談」用の外来窓口を設け、症状が重ければ入院させる、といった措置が望まれる。受け皿が必要だ。ポイントは重症かどうかの見極めである。

 中京地方の高度医療センターの内科総合医は、「新型肺炎はCTを撮ればすぐにわかる。白い影が映ります。肺炎がなくて軽症なら対症療法の薬で、自宅療養でいい」と言う。

 しかし、東京都内の新型肺炎に対応できる大病院は、すでに武漢からのチャーター航空便帰国者や、クルーズ船の陽性者たちを受け入れ、フル稼働状態。受け皿はどこにあるのか。

 特養の所長は語る。

 「いざというときに備えて、施設の理事を集めて会議を開きましたが、せいぜい、もしも発生したら隠さない。情報開示する、という当たり前のことを確認した程度です。近くに有名な大病院がありますが、もう新型肺炎患者でキャパはいっぱい。特別な外来診療窓口を作れる病院がどれだけあるのか。そういう外来窓口をつくるには、『陰圧(施設内の圧力を低くして病原体が外部に流出しないようにしていること)』をかけなくてはいけないとか、特別な要件を満たさなくちゃいけない。コストも人手もかかります。全然情報がありません」

 この状態で感染者が発生したらどうするのか。

 「まずは休業でしょうね。ショートステイと、在宅ケアは即中止。ただし、本体の施設に入所されている方々を休業だからといって放り出すわけにはいかない。うちは全室個室なので、陽性者でも症状が軽ければ、自室で療養していただきく。国や感染症の専門家も、自然治癒に重点を置いてる。ただし、80代以上の新型肺炎の致死率は14~15%。われわれはギリギリの状況です。せめて、感染第一号の特養にはなりたくない。近隣含めて大騒ぎになりますからね」

 と、所長は苦しい胸のうちを語った。

 25日に国は新型コロナウイルス対策の総合的な基本方針を発表するという。高リスク集団の高齢者施設にどのような言及をするか、注目したい。

■山岡淳一郎(作家)
1959年愛媛県生まれ。作家。「人と時代」「21世紀の公と私」をテーマに近現代史、政治、経済、医療など旺盛に執筆。時事番組の司会、コメンテーターも務める。著書は、『後藤新平 日本の羅針盤となった男』『田中角栄の資源戦争』(草思社)、『気骨 経営者 土光敏夫の闘い』(平凡社)、『逆境を越えて 宅急便の父 小倉昌男伝』(KADOKAWA)、『原発と権力』『長生きしても報われない社会 在宅医療・介護の真実』(ちくま新書)、『勝海舟 歴史を動かす交渉力』(草思社)、『木下サーカス四代記』(東洋経済新報社)、『生きのびるマンション <二つの老い>をこえて』(岩波新書)。2020年1月に『ゴッドドクター 徳田虎雄』(小学館文庫)刊行。

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